○ 11月25日(日) 初日
小屋入りは8時30分。その1時間前に鉄兵ちゃんに我が家に来てもらう。荷物が多くてウチの車だけじゃ積み込みきれないし、一人じゃ運べないものもある。忘れ物がないようにチェックリストを手に確認しながら大道具、小道具を車に積み込んでいく。
昨夜まきちゃんから発熱したとの連絡があった。僕もLABO/1に出演した際に初日前夜に高熱にうなされたことがある。「穴を開けたらみんなに顔向けできない。もう芝居できないかも…。」なんてことをボーっとしている頭の中のわずかな思考力で考えていたっけ。たぶんまきちゃんも同じように不安いっぱいになっていることだろう。小屋入りはゲネプロ直前でいいから身体を休めるようにと指示する。そのことを鉄兵ちゃんに告げると「ありゃ〜。」と心配するが、それほど不安そうではない。さすがイベント慣れしていらっしゃる。“始まるまでは悲観的 始まったら楽観的”がイベント運営の極意。起きてしまったことを後悔しても挽回できないし、原因は後で反省すればいい。今はその時々でベストを尽くす。そんなアクシデントも含めて「う〜ん、ワクワクしてきたぞ〜。」などとイベント好き同士、鉄兵ちゃんと話しながら会場に向かう。
定刻小屋入り。事務室に挨拶して展示室に搬入を始める。今回のFestaは夢の島プロジェクトが初めて開催するイベントということもあるし、浜北文化センター展示室で芝居をやるというのも初めてのこと。もちろん事前に仕込み図面を作ったりしてできる限りの準備はしたが、前例もノウハウもない中での仕込みは暗中模索。一つ思惑から外れたことが起こればその対処に予想もしない時間を要する。ゆえに早め早めに進めて時間にも心にも余裕をつくりたい。そのために作ったのが「実施プログラム」、解りやすく言えばスタッフの行動一覧表。レクリエーション関係のイベントでは一般的なもので、鉄兵ちゃんと一緒に関わっていたYYアドベンチャーでも必ず作っていたものである。読めば自分がこの時間何をして、どんなことに気をつければよいか、そのために必要な物品も一目瞭然の代物だ。準備工程がリーダーの頭の中にしかなくて、他のスタッフは指示がなければどうにも動けないというのは無駄が多い。「実施プログラム」がしっかりしていれば、指示がなくてもリーダーの考えが理解できるし、万が一リーダーが不在になっても準備を進めることができる。2日間で20ページを超えるボリュームなので全部目を通した人は少ないだろうが、それでもメンバーの動き方がスムーズなのは「実施プログラム」を作っておいて良かったなと思う。
一方ことちゃんとめめちゃんの小屋入りはゲネプロ前。小さな子供のお母さんを丸々2日間拘束するわけにはいかない。がっしーさんも地元行事(これも大事)で朝一からの参加は叶わず。そういった中でまきちゃんの体調不良は単純に人工が減って正直痛いな〜(畑木は遅れて一人で馳せ参ずる)と思ったが、何とめめちゃんの旦那さんが芝居経験がないのにも関わらず午前中の仕込を手伝ってくれることになった。他にもプロジェクト熱のはっしーと元浜松キッドの島田さんが朝一から手伝ってくれている。やれ、ありがたや人的ネットワークに助けられてます。
まずは3階に保管されている浜北文化協会所有の展示パネルを2階の展示室へ。仕込み図を元に柱と組み合わせて並べていく。これに厚手のカーテン生地をアレンジした幕を張って舞台を設えるのだ。本当はしっかりとした大道具を作りたいし、展示パネルに幕を張っただけのセットを「安直だ。」と批判する演劇関係者がいることも知っているが、大道具製作はその手間はもちろん、製作場所から会場までの輸送とか、その後の保管(または廃棄)もかなりの労力をを要する。現状の夢の島プロジェクトでは輸送もその後の保管も難しいため敢えてこのような形にした。ただ逆に言えばこの幕さえあれば“どんな所でもFesta開催が可能”となる。そんな考えから決して安くはなかったが幕を作製したのだ。
その幕を舞台上の展示パネルに張って画鋲や安全ピンでとめていく。舞台以外はこれも浜北中央公民館からお借りした黒幕を張る。めめちゃんの旦那さんが幕張班のリーダーになっていろいろアイディアを出してくれたのでとても助かる。こうして何も無かった展示室が昼前には立派な演劇スペースになってきた。舞台裏や楽屋の準備も順調に進み、照明、音響の仕込みと客席の設営を残すくらいとなった。気持ちにも余裕が出てきて、みんなで食べるホカ弁の旨いこと旨いこと(^^)。
午後からは照明の仕込みが本格化。同時に客席の設営を始める。照明は通常の演劇用ライトではなく、ホームセンターなどで売っている100Wのクリップライトを使用。部屋の照明(蛍光灯)を使うことも考えたが、可能な限り本格的にしたいし、将来的に“どんな所でもFesta開催が可能”にしたいのでコツコツと買い込んでいた。これを家庭用延長コードで蛸足配線し、省エネタップにつなげる。これでとりあえず系統別のON、OFFはできるようになる。欠点は光の強弱の操作はできないことと、ライトの性質上赤っぽい光になること。強弱の方は演出上でも必要なしと判断したのでいいが、赤っぽい光は何とかしたいところ。とは言え通常演劇の照明で使う鉄枠にはまったフィルターでは重過ぎてクリップライトには付けられない。知人からフィルターを貰いうけたので、畑木に「何か細工してみてよ。」とお願いしたらダンボールとマジック、黒ガムテープを駆使してそれらしく作ってくれた。クリップライトに付けるとまるで本物! みんな天井を見上げて「すげぇ〜。」と感嘆の声。配線の方は「見栄え良くね。」といういい加減かつ分かりやすい演出(僕)の指示を受けて照明担当の島津がえらく苦労しながら天井にくくりつけていく。(申し訳ない!)
客席は最前列に僕の家から持ち出した人工芝シートの上に畑木家から借りた座布団を2列に敷いて桟敷席とし、その後ろに展示室備え付けのベンチシートを2列に並べる。舞台が客席と同じ高さの場合、同じ高さでの客席設営は2列が限界。3列目になると前のお客さんの頭が邪魔になって舞台が見えなくなってしまう(これを“縦見切れ”と言う)。今回は2列のベンチシートの後ろに劇団からっかぜさんからお借りした箱馬と二重(平台、さぶろくとも言う)を設え、その上に浜北体育館から借りたパイプ椅子を壁に沿って並べる。これで通常席49(+車椅子席2)の客席が完成。客席から舞台を見、舞台から客席を見て「うわぁ、俺、この舞台に立てるんだぁ。」と実感が沸いてきた。
作業は細かいものに移行。旦那さんに代わって午後から小屋入りしためめちゃんは『隣の奴』で使用する洋式トイレと『鍋と乙女』で使うソファをパイプ椅子に布を撒きつけて設える。鉄兵ちゃんと島田さんははっしーの指導により蓄光テープをセットや道具類に貼り付けていく。暗転中にセットに激突して倒壊でもしたら大変である。地元行事を終えて小屋入りしたがっしーさんは畑木と音響のセッティング。今回の音響はパソコンにデータを入力する方法。正直アナログ人間の僕にはよく分からないのだが、いざという時のことを考えてパソコンを2台持ち込んだのはさすが。
目処がついたところで受付会場の準備。お客さんの流れを考慮して机を並べ、当日パンフレットにアンケートと他公演の折込チラシを挟んでいく。めめちゃんと島田さんは会場外にチラシを貼り付け、可愛いイラストを書いてお客さんを迎える準備。小屋入りしたことちゃんが入り口から客席、舞台を見て「凄〜い!」と感嘆の声をあげる。うん、確かにこれは凄いよ。
その頃僕と島津は照明の場当たり。実際に『鍋と乙女』や『隣の奴』の道具類をセッティングし、がっしーさんやことちゃんに座ってもらって調整していく。う〜ん、地明かりは何とかなったが、やっぱり家庭用のスポットライトではどうしても光が拡散してしまって舞台専門のピン・スポットのようにはいかない。まぁこれは残念だが今回は諦め。次回までの宿題となった。きっかけ合わせは前々日にほぼ終わっていたので今日は最終確認のみ。
この頃には絶賛発熱中で見るからに体調悪そうなまきちゃんが畑木に連れられて小屋入り。全員揃ったところで場転の段取りを確認する予定だったが、まきちゃんの状況を見て負担をできるだけ減らすべく、代わりにはっしーに場転要員をお願いする。実はこれまで場転について全く確認しておらず、大袈裟に言えば「最後の難問」だった。照明を落として(光量落とした青いライトは点けるが)の場転は手際よくして如何に時間を短縮するかが重要。長い時間真っ暗だったり、バタバタと行き交うスタッフの足音が聞こえたり、ドタンバタンと大道具を運ぶ音が聞こえたりしてはお客さんが興ざめしてしまう。『隣の奴』から『鍋と乙女』へのスムーズな転回。事前に考えていた段取りをメンバーに伝え、照明を点けたままやってみて確認。その後『隣の奴』のラストシーンから実際に照明を落し、曲を流してやってみる。時間は1分弱でギリギリセーフ。場転の目処がたってホッとした空気が流れる。もっとももっと前に確認しておけば気に病む必要がなかったのだが。
場転確認で照明を落としてみたら、展示室内の非常灯の光がかなり明るいことが判明。はっしーに非常時にすぐ外せる形で隠すようにお願いしたらダンボールを使って巧く細工してくれた。名付けた異名が「ダンボール・アーチスト」。みんな器用なんだなぁ。ホントに助けられてます。
さて次はゲネプロという段階になって、今まで余裕があったのに時間が押し気味になってきた。何故だ? 役者は大慌てで着替えをし、スタッフも最終チェック。前説から本番さながらにスタート。今夜の前説担当は畑木。「伝えるべきことをちゃんと言えば、後はいくら遊んでもいいよ。別に被り物(キッド風の前説)をせんでもいいし。」とは言ったのだが、『GATSBY』CMのキムタク風の衣装と髪型を仕込んできて、携帯で曲を鳴らして歌いながら登場。期待を抱かせたが、説明と退場は素のままだった(・・;)。せっかくだからもう少し遊べばいいのに。
初めて照明と音響を入れて、スタッフとは言え第三者に見てもらうゲネプロ、気合が入るよ。アマチュア劇団の場合、小屋入りしてから稽古場と本番の舞台の大きさの違いに戸惑うことが多いが、今回稽古時から舞台実寸を意識してきたのでその辺もスムーズ。何かと事前に準備してきたことが大きい。前説と僕が出演する『隣の奴』はことちゃん、『鍋と乙女』は僕がダメ出しをする。
ゲネプロ中にうに5%の田辺さんが受付スタッフとして手伝いに馳せ参じてくれた。ありがたや。
この頃には会場外の廊下にはお客さんが集まりだしていた。夢の島プロジェクトの芝居を観にきてくれた人たちだ。喜びとともに少しずつ緊張感も高まっていく。役者・スタッフがそれぞれ最終確認をしたうえで舞台裏に集合。メンバーにこれまでの感謝、今日手伝ってくれる仲間に御礼の気持ちを伝える。ここまで無我夢中でやってきたが、みんなの前に立ったこの時初めて「俺このイベントの総責任者なんだ…。」と実感した(遅い)。
活劇団シアターLABO/1流の円陣気合入れをする。いろいろな劇団で幕開け前の儀式を経験したけど、このLABO/1にお手伝い&出演時に経験した気合入れが一番自分に合っていた気がするのでそのまま夢の島にも導入(パクリ)。円陣を組んで手を合わせ、僕が「演劇はー!」と叫ぶとみんなが「気合だー!」と叫ぶ。これを三唱し、最後に「オーッ!」と締める。
舞台監督鉄兵ちゃんの指示で開場。受付から「いらっしゃいませ。」というお客様を迎える声とお客さんのざわめきが、役者が控える舞台裏に聞こえてくる。客席を堂々とのぞくわけにはいかないのでよく分からないが、客入りは上々な様子。ここからはリーダーでも演出でもなく、一役者としての時間だ。僕の開演前の儀式、まずはスタッフ、共演者と握手を交わす。それから両手を合わせ、それを口に当てて集中力を高める。他のメンバーもそわそわと落ち着きが無い。客席に聞こえぬ程度の小声でおしゃべりを続ける人、衣装の上にコートを着込んでこっそりと何度もトイレに行く人(ホントはいけないんだぞ〜)、今一度台本を見直す人…。ほとんどがしばしの中断期間を経ての役者復帰。押さえようにも緊張が高まってくる。さぁ。いよいよ開演!
前説畑木の登場。『GATSBY』CM曲を歌いながらの登場は客席ざわめいたが、説明と退場時には静まった。う〜ん、やはりもう一捻り。とは言え前説まで気を配れなかった演出(僕)の力不足もあるが。
今回の企画がスタートした段階では『鍋と乙女』だけでのFesta開催を考えていたため、稽古中「夢の島のスタートはめめちゃんの一声から!」なんて脅かしていたものだが、急遽『隣の奴』の参戦が決まり、第一声のお鉢が僕のところに回ってきてしまった(^^)。暗転し曲が流れ、再び照明が点いていよいよ登場。台詞を言いながら舞台に出て行ってびっくり! 客席が満席とは言わないまでもほぼ埋まってる! ちなみにこの日の有料入場者数40名。客席から近い舞台から見ると一見満席にも匹敵する迫力である。あ〜とうとう幕を開けたんだ。俺、お客さんの前で、舞台の上で、照明を浴びてんだ。
滑り出しも流れも、がっしーさんとの掛け合いも決して悪くなかったがお客さんの反応が少ない。トイレに駆け込んでズボンを脱ぐシーンで桟敷席最前列の女性たちから「えっ、えっ、えっ〜!」って声が聞こえてきたくらいで、最も期待する笑いは全くと言っていい程ない。自分たちはあまり感じていないが2人共久々の舞台、やはり緊張から固くなっていてそれがお客さんに伝わってしまっているのか? その雰囲気は『隣の奴』が終わり、場転を経て『鍋と乙女』になっても変わらず。舞台裏で声を聞く限り反応があったのは真由がグラスの代わりにお玉でワインを飲むシーンと、ラストで朋美が二股かけられていた相手が以前真由が詐欺(?)にあった相手だったことが判り、包丁を持って登場するシーンのみ。何故だろう? 何が足らないのか? ウロウロ歩きながら演出として原因を探る。
もっともお客さんから反応があった2つのシーンは演出として力を入れたところで、胸の中で少しガッツポーズ。特にラストの真由が包丁を持って登場するシーンは、そこまでとは空気を変えて欲しいと稽古中言い続けていたのだが納得できる出来に至らぬまま本番を迎えていた。舞台裏で伺う限り、間違いなく空気がガラッと変わった。本番で求めるものをこなしてくれた3人に感謝だ。まきちゃんも場転も自らこなして頑張ってくれたよう。明日は体調復活するといいなぁ。
カーテンコール。一人ずつ舞台に出て行き、揃ったところで挨拶。実はこの挨拶も当初は僕がしゃべる予定ではなかった。舞台は役者のもので、例え主宰者や演出であっても役者でなければノコノコとお客さんの前に出て行くべきではないと考えているので、『鍋と乙女』だけでのFesta開催を考えていた頃は「挨拶はことちゃん!」などと言っていたが、結局自分が挨拶することになった。でも夢の島の第一歩でもあるし、このFestaにかける想いを自分自身で話すことができたのは良かったのかも。その後客出し。他劇団の主宰者や高校演劇の指導者の方、意外な人が来ていてくれたりして喜びこの上なし。「おもしろかった。」という感想から厳しい意見までいろいろ聞けて参考になった。一部仁義に欠けた発言には少々苛立ったが。
翌日の確認&打ち合わせをして解散。1ステージしかないと慌しくバラシをしなくてならないが、明日もあるので余韻に浸ることができる。スタッフや体調が思わしくないまきちゃんと一緒に畑木は帰宅したが、それ以外のメンバーはアンケートに目を通したり、差し入れの中で生ものを配ったりしてまったりと過ごす。閉館時間になって重い腰をあげたが、冷え込んできた駐車場で雑談が続く。この場を去り難いのだ。みんな芝居に関われた幸せを噛みしめている。いい顔してるよ。
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